相続法解説(民法第5編) 第3章 相続の効力 第1節 総則
第896条【相続の一般的効力】
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。
解説
相続人は、被相続人が死亡した時からその財産に属した一切の権利義務を相続します。
プラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産があればそれも全て相続します。
ただし一身に専属したもの(一身専属権)は相続しません。
一身専属権とは簡単に言うと、その人のみに帰属する権利(義務)で他人による行使が不適切なものです。具体例としては、親権、代理権、年金受給権などがあります。
第897条【祭祀に関する権利の承継】
1項 系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続
人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。
2項 前項本文の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が定める。
解説
1項 祭祀財産とは系譜、位牌、仏壇、墓石、墓地(墳墓と社会通念上一体の物ととらえてよい程度に密接不可分の関係にある範囲の墳墓の敷地である墓地は、民法897条に規定する墳墓として祭祀財産と解される。広島高判平成12年8月25日)などをいいます。
祭祀財産は相続財産には含まれないので、別にその承継者を決めます。
相続財産とは別者なので相続人以外の者や相続放棄をした者でも祭祀財産を承継することは可能です。
被相続人の指定があった場合はその指定された者が祭祀財産を承継します。
指定が無かった場合は慣習に従い承継する者を決めます。
2項 慣習が明らかでない場合は家庭裁判所へ祭祀承継者指定の申立てをし、家庭裁判所の審判によって祭祀承継者が指定されます。
第898条【共同相続の効力】
相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。
解説
相続人が複数人いる場合、一時的に相続人全員で相続財産を共有することになります。
その後、遺産分割協議において個々の相続財産の帰属先を決めていきます。
第899条【共同相続の効力】
各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する。
解説
相続人が複数人いる場合、その法定相続分の割合に応じて被相続人の権利義務を承継します。
義務もあるのに権利だけを承継することはできません。そのような場合は権利と共に義務も承継しなければなりません。
第899条の2【共同相続における権利の承継の対抗要件】
1項 相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第901条の規定により算定した相続分を超える
部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。
2項 前項の権利が債権である場合において、次条及び第901条の規定により算定した相続分を超えて当該債権を承継した共同相続人が
当該債権に係る遺言の内容(遺産の分割により当該債権を承継した場合にあっては、当該債権に係る遺産の分割の内容)を明らか
にして債務者にその承継の通知をしたときは、共同相続人の全員が債務者に通知をしたものとみなして、同項の規定を適用する。
解説
1項 法定相続分を超えて財産を相続した場合は、法定相続分を超える部分については、不動産なら登記、自動車なら登録、等の対抗要件を備えなければ、第三者に対して権利の取得を主張することができません。
他の共同相続人は第三者ではありませんので、登記等の対抗要件を備えてなくても権利の取得を主張することができます。
2項 法定相続分を超えて取得した権利が債権である場合は、その債権取得の根拠となる遺言や遺産分割の内容を債務者に示すことで、共同相続人の全員が債務者に通知をしたものとみなされます。
民法467条の規定によれば、共同相続人全員による債務者への通知が要件となってしまいますが、それは状況によっては非常に大変な作業となる場合もあるのでこのような緩和的なルールが設けられました。
参考条文
第467条【債権の譲渡の対抗要件】
1項 債権の譲渡(現に発生していない債権の譲渡を含む。)は、譲渡人が債務者に通知をし、又は債務者が承諾をしなければ、債務者その他の第三者に対抗することができない。
2項 前項の通知又は承諾は、確定日付のある証書によってしなければ、債務者以外の第三者に対抗することができない。